労務管理コラム

【IPO(上場)労務コラム】「労働者代表」の性質と重要性について

2022.07.15

【IPO(上場)労務コラム】「労働者代表」の性質と重要性について

【1】IPO(上場) 労務 における「労働者代表」の性質と重要性

IPO(上場) 準備中の労務DD(デューデリジェンス)における労務課題として第一に挙げられるのが「労働者代表の適格性」です。労働者代表という言葉は36(サブロク)協定では、聞き馴染みがあるものですが、きちんと理解していない経営者、労務担当者は多いのではないでしょうか?

就業規則や労使協定の制定プロセスに携わる、労働者代表の役割とその立場は決して軽視できるものではありません。最近では36(サブロク)協定の様式も、労働者代表の適格性に対するリマインドチェックが設置されるなど、労働基準監督署からも厳しく指導されるようになりました。当然のことながらIPO(上場) の労務DD(デューデリジェンス) でも最優先で確認しなければならない項目であります。

今回のコラムではこの「労働者代表」の性質と重要性について掘り下げて解説していきたいと思います。

【2】労働基準法における労働者代表とは

前述の通り、労働者代表が毎年行う締結手続きの代表例として時間外労働・休日労働に関する協定届 (いわゆる36(サブロク) 協定)がありますが、その裏面、記載心得には以下のとおり記載があります。

協定については、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合」と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は「労働者の過半数を代表する者」と協定すること。

大手と異なりベンチャー企業では労働組合が組成されてないことがほとんどで、多くの場合は後者の「労働者の過半数を代表する者 」を選出することとなります。

また、続けて選出手続きにあたっては以下の通り記載があります。

労働者の過半数を代表する者は、労働基準法施行規則第6条の2第1項の規定により、労働基準法第 41 条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でなく、かつ、同法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。これらの要件を満たさない場合には、有効な協定とはならないことに留意すること。

ポイントとしては、①管理監督者ではないこと、②選出目的を明らかにして選出すること、③投票、挙手等の 民主的手続きによること、④使用者の意向に基づかないこと、の4つがあります。

①管理監督者ではないこと

労働基準法第 41 条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者は、経営者と一体の立場にあるとみなされるため、労働者代表になることができません。このため、そもそも候補者になることができません。


管理監督者なのに残業代を払うように指摘されてしまいました。なぜでしょうか?

当社では課長職以上は管理監督者として扱っており残業代の支払い対象から外しております。しかし、先日労働基準監督署の監査が入り、課長職にも適正に残業代を払うように指導されました。労働基準法では管理監督者には割増賃金を支払わなくてよいことになっていると思いますがいかがでしょうか?

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②選出目的を明らかにして選出すること

通達では選出について「法に基づく労使協定の締結当事者、就業規則の作成・変更の際に使用者から意見を聴取される者等を選出することを明らかにして実施すること」とされています。選出プロセスのエビデンスを残すという点で、社員向けの告知文にはこうした「目的」文言を必ず入れておくようにしましょう。

③投票、挙手等の 民主的手続きによること

法的には挙手による方法も認められていますが、選出プロセスの エビデンスを残すという点で、やはりメールや文書などの方法により選挙を行うのが原則的なやり方となります。なお、「投票、挙手等」とありますが、「等」とは何でしょうか?

これについて労働基準法解釈例規の疑義応答では「労働者の話し合い、持ち回り決議等労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続きが該当する」とされています。従って、いわゆる回覧による信任投票などの方法も認容されると考えます。

④使用者の意向に基づかないこと  

これはスタートアップにありがちですが、社員が少ない頃に管理部門の担当者が使用者に依頼され労働者代表となり、そのまま今日まで来てしまっているというケースが散見されます。こうしたケースではそもそも労働者代表の適格性に疑義が生じるため、適切な手続きで再選出するようご留意ください。

なお、選出プロセスにおいて労働者代表選挙の事務作業を会社がサポートする程度の介入は許容されます。実際にはこのパターンが多いのではないかと思います。

【3】労働者代表に任期はあるのか

労働基準法における労働者代表については、会社で定めない限り今のところ任期を定める法的な義務はありません。但し、締結当時よりも組織の規模が大きくなっている場合や、人員の入れ替わりにより客観的にみて、代表として不適格ではという疑義が生じる可能性があります。

このため任期を定めない場合も、新たな労使協定の締結や、就業規則の意見聴取のタイミングなどの機会を通じ、状況に応じて適宜再選出を行うことが望ましいといえます。

【4】労働基準法における労働者代表の役割と責任とは

労働基準法における労働者代表の役割は、主に「各種労使協定の締結当時者になること」、「就業規則の届け出時の意見聴取に対応すること」です。

なお、よく誤解されていますが、選出されて以降は、労使協定締結の都度、労働者代表が労働者全員の意見を毎度毎度まとめあげる必要はありません。就業規則の改定に際し、代表として意見を述べた場合も、その意見について何ら責任を負うことはありません。あくまでも代表者として意見を述べたに過ぎませんので個々の労働者から問い合わせがあっても回答する義務もありません。そういった対応はすべて会社が行うべきものです。

こうした誤解により労使調整役としての過剰な負担を懸念し「労働者代表になりたくない」という人も少なくありません。よく説明しておく必要があるといえるでしょう。

【5】派遣労働者はカウントするのか

労働者の過半数代表における分母は、事業場に所属するすべての労働者を入れることになりますので、短時間労働者や有期契約社員などもすべて母数にカウントされます。また、労働者代表になれない管理監督者も投票権は持つことになります。

出向社員は出向元、出向先のいずれとも雇用関係を持つことから、双方の事業場において投票権を持つことになります。

では、派遣会社において、他の事業場で働く派遣労働者はどうなるのでしょうか?これに関しては以下のように通達が出ています。

派遣元の使用者は・・・(省略)労働者の過半数を代表するものと協定をすることになる。
この場合の労働者とは、当該派遣元の事業場のすべての労働者であり、派遣中の労働者とそれ以外の労働者との両者を含むことであること。
なお、派遣中の労働者が異なる派遣先に派遣されているため意見交換の機会が少ない場合があるが、その場合には代表者選任のための投票に併せて時間外労働・休日労働の事由・限度等についての意見・希望等を提出させ、これを代表者が集約するなどにより派遣労働者の意思が反映されることが望ましいこと。 

従って、派遣先ではなく派遣元の母数に含めるということになります。ちなみに派遣されている社員については投票の機会を通じて意見や希望を提出させる、というのは良い案だと思います。

【6】IPO(上場) 準備中に労働者代表性が否認された場合のリスク

ここまで見てきたように労働者代表当事者には何らリスクはありません。労働者代表の適格性に疑義が生じた場合に法的なリスクが発生するのは他でもない「会社」です。

なぜなら、労働者代表の適格性が否認された場合、その労働者代表と締結した労使協定や就業規則は法的な構成要件を満たしておらず無効と評価される可能性があるからです。

労働者代表と締結する労使協定にはコンプライアンスにかかわる「36協定」のみならず「裁量労働制」や「フレックス協定」、「派遣法の同一労働同一賃金協定」など賃金や労働時間に関する重要な協定が多々あります。

これらの協定が否認された場合、その協定に依拠した過去の運用は遡って無効であったものとされるため「未払い残業代の発生」に直結するリスクがあります。

IPO(上場) 労務 における「労働者代表」の性質と重要性を十分に理解し、自社での運用をご検討ください。



佐藤 貴則

この記事を書いた人

佐藤 貴則

株式会社エスティワークス 代表・特定社会保険労務士
明治大学卒業後、上場メーカーにて勤務。 最前線において管理職(ライン課長、プロジェクトマネージャー等)を歴任し、現場のマネジメントにあたる。平成16年に社会保険労務士資格を取得。その後、独立して株式会社エスティワークスを設立。平成18年に新たに開始された特定社会保険労務士制度 第1期合格のうえ付記。中小企業を中心に社内規程の整備、労務管理のコンサルティングを行う。 また、IPO(上場)労務分野に強みを持ち、これまでに大手アパレルEC系ベンチャー、AIベンチャーなど日本を代表する30社以上のベンチャー企業のIPO(上場)支援実績がある。