労働法改正情報
【1】概要
令和5年10月より、厚生労働省は「年収の壁・支援強化パッケージ」の取り組みを開始しました。
今回はこのパッケージのうち、130万円の壁への対応についてご紹介いたします。
【2】「年収の壁・支援強化パッケージ」とは
厚生年金保険及び健康保険においては、会社員の配偶者等で一定の収入がない方は、被扶養者として保険料の負担が発生しません。
こうした方の収入が増加した場合、下記のいずれかの形で、被扶養者でなくなり、社会保険料の負担が発生することとなります。
厚生年金保険の被保険者数が常時101人以上の事業所で働く 短時間労働者などの場合 |
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年収106万円以上となり、厚生年金保険・健康保険に加入する |
厚生年金保険の被保険者数が常時100人以下の事業所で働く 短時間労働者などの場合 |
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年収130万円以上となり、国民年金・国民健康保険に加入する |
保険料負担に伴う手取り収入の減少を意識して一定の収入を超えないように就業調整を行う、いわゆる「年収の壁」への対応にあたっては、社会全体で労働力を確保するとともに、労働者自身も希望どおり働くことのできる環境づくりが重要です。
こうした環境づくりを後押しするため、当面の対応策として「年収の壁・支援強化パッケージ」を策定されました。
【3】「130万円の壁」への対策-事業主の証明による被扶養者認定の円滑化-
社会保険の被扶養者として働いている労働者は、年収130万円以上になると、国民年金・国民健康保険の保険料支払いにより手取りが減ってしまうため、人手不足で仕事はあるのに、働く時間を調整するという働き控えが発生することがあります。
この働き控えを解消するために、社会保険の被扶養者として働いている労働者が、繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みができました。
(厚生労働省のパンフレットより抜粋)
【4】事業主の証明による被扶養者認定に関するQ&A集
今回の仕組みについて、厚生労働省よりQ&A集が公表されておりますので、その一部をご紹介いたします。
Q 今回の措置(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)はいつから開始されるのでしょうか。また、今回の措置の開始前の扶養認定に遡及されるのでしょうか。 |
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A 今回の措置については、本Q&Aの発出日(令和5年10月20日)以降の被扶養者認定及び被扶養者の収入確認において適用します。なお、発出日前の扶養認定及び被扶養者に係る確認については遡及しない取扱いとします。 |
Q 今回の措置は、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明によって、健康保険組合等の保険者による円滑な被扶養者認定を可能にするとのことですが、どのような事情であれば「一時的な収入変動」として認められるのでしょうか。 |
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A 一時的な収入増加の要因としては、主に時間外勤務(残業)手当や臨時的に支払われる繁忙手当等が想定され、一時的な収入変動に該当する主なケースとしては、 ・当該事業所の他の従業員が退職したことにより、当該労働者の業務量が増加したケース ・当該事業所の他の従業員が休職したことにより、当該労働者の業務量が増加したケース ・当該事業所における業務の受注が好調だったことにより、当該事業所全体の業務量が増加したケース ・突発的な大口案件により、当該事業所全体の業務量が増加したケース などが想定されます。 |
Q 今回の措置は、どのような方が対象となるのでしょうか。配偶者(国民年金の第3号被保険者)に限られますか。 |
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A 今回の措置の対象は、配偶者(国民年金第3号被保険者)だけではありません。社会保険の被扶養者の方、新たに被扶養者としての認定を受けようとしている方が対象となります。 |
Q 今回の措置は、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明によって、健康保険組合等の保険者による円滑な被扶養者認定を可能にするとのことですが、「一時的な収入変動」と認められる上限額はいくらまででしょうか。 |
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A 今回の措置は、被扶養者の収入確認にあたって、通常提出が求められる書類と併せて、一時的な収入変動である旨の事業主の証明を提出することで、保険者による円滑な被扶養者認定を図るものです。 ・仮に上限を設けた場合、当該上限が新たな「年収の壁」となりかねないこと ・一時的な事情によるものかどうかは収入金額のみでは判断が困難であること からお示しすることは困難ですが、各保険者において雇用契約書等も踏まえつつ、当該増収が一時的なものかどうか確認いただくこととなります。 なお、法令・通知等に基づき、 ・被扶養者が被保険者と同一世帯に属している場合に、被扶養者の年間収入が被保険者の年間収入を上回る場合 ・被扶養者が被保険者と同一世帯に属していない場合に、被扶養者の年間収入が被保険者からの援助による収入額を上回る場合 には、当該被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められず、被扶養者の認定が取り消されることとなります。 |
【5】実務のポイント
今回の措置により、協会けんぽや健康保険組合で行われる定期的な被扶養者の収入確認のタイミングや、扶養追加の手続きを行う際に事業主証明が求められる可能性があります。
また、自社管掌の保険者だけではなく、自社の従業員の配偶者が勤務している他社管掌の保険者から証明を依頼されることも考えられます。
求められた際に対応できるよう、今回の措置の内容を理解しておくことが必要です。
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この記事を書いた人
平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。