労働法改正に関するコラム

「スポットワーク」における留意事項等リーフレット 〜令和7年7月4日公表〜

公開日:2025.08.13

更新日:2025.08.13

「スポットワーク」における留意事項等リーフレット 〜令和7年7月4日公表〜

厚生労働省から「スポットワーク」における留意事項等を取りまとめた労働者及び使用者向けのリーフレットが令和7年7月4日に公表されました。スポットワークは、スマホで即応募・即就業できる新しい働き方として急速に広がっています。繁忙期の人員確保や副業ニーズに応える一方、契約や賃金、安全管理など、企業には通常雇用と同等の労務管理が求められます。本記事では厚労省リーフレットの内容をもとに、スポットワーク導入時に押さえておきたい注意点を解説します。

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スポットワークの概要と普及背景

スポットワークは、労働者自身の都合に合わせて働くことができることのみならず、一時的な人手不足が生じた場合に迅速に募集できるなど、労働者及び事業主双方にとって利便性が高いことなどから、利用者数が増加しています。

一方で、全国の都道府県労働局や労働基準監督署には、スポットワークで働く労働者から、事業主の指示により始業開始前に勤務したにもかかわらず、当該時間分の賃金が支払われないなどの賃金不払等の相談や申告が一定数寄せられているとのことです。

このため、厚生労働省は今回リーフレットを作成し、広く周知を図ることとしました。

急拡大するスポットワーク市場

数年前までは限られた業界でしか耳にしなかった「スポットワーク」ですが、今や飲食店の厨房からイベント会場、物流センターまで、あらゆる現場に浸透しています。背景には、副業・兼業の一般化や人手不足の深刻化といった社会的な変化があります。「必要なときに、必要な人を」という企業の要望と、「短時間だけ働きたい」という労働者のニーズが、テクノロジーを介して合致した結果といえるでしょう。

仕組みと即応性のメリット

アプリ上で求人情報を見つけ、ワンタップで応募、そのままマッチング・就業が決まる——スポットワークの魅力はこのスピード感にあります。繁忙期の戦力補強や、急な欠員対応など、従来の採用フローでは間に合わない場面で強みを発揮します。企業にとっても、柔軟性と機動力を兼ね備えた労働力確保の手段として、もはや欠かせない存在になりつつあります。

なお、リーフレットではスポットワークを下記のように定義しています。

スポットワークの定義
短時間・単発の就労を内容とする雇用契約のもとで働くこと

また、スポットワークにはさまざまな形態がありますが、リーフレットでは、スポットワークの雇用仲介を行う事業者が提供する雇用仲介アプリを利用してマッチングや賃金の立替払を行うものを対象とすることとしています。
続いて、スポットワークの労務管理の注意点についてご紹介いたします。

労働契約締結時における注意点

労働契約の成立・解約・変更に関する注意点

労働契約は、労働者が事業主に使用されて労働し、事業主がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び事業主が合意することによって成立します。

スポットワークでは、アプリを用いて、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的です。

面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられます。

民法上、契約期間の定めのある労働契約については、労使間で特段の合意がない場合は、やむを得ない事由(天災事変等)がある場合を除き、労働契約成立後に解約することはできません。

なお、一旦確定した労働日や労働時間等の変更は、労働条件の変更に該当し、事業主とスポットワーカー双方の合意が必要です。

労働契約成立と労働条件の明示義務

労働契約成立のタイミングを誤解しない

スポットワークは軽い気持ちで始めやすい一方で、「契約がいつ成立するか」を誤解している企業も少なくありません。実は、求人掲載は事業主からの申込、応募は労働者の申込とされ、双方が合意すれば契約は成立します。面接や契約書の取り交わしがなくても、アプリ画面上で条件に同意すれば民法上の労働契約は成立しているのです。

労働条件通知書は必須

労働契約が成立すると、事業主には労働基準法等を守る義務が生じます。スポットワーカーに労働条件を明示しなかった場合には、労働基準法違反となります。

労働条件通知書の交付はスポットワーク仲介事業者が代行してくれる場合もありますが、交付は事業主の義務なので、きちんと交付されているか、その内容は適切か、事業主側で確実に確認しましょう。もしスポットワーク仲介事業者から交付されていない場合、事業主から交付が必要です。労働基準法第15条では、賃金や労働時間、勤務地、業務内容などを明示する義務が定められています。スポットワークでも例外ではありません。仲介アプリが自動で通知していても、法的責任は最終的に求人を出した事業主にあります。「アプリ任せ」にせず、社内で確認フローを整えておくことが欠かせません。

賃金・労働時間に関する注意点

業務に必要な準備行為について

事業主の指示により、就業を命じた業務に必要な準備行為(指定の制服への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(掃除等)を就業先内において行った時間などは労働時間にあたります。

予定した始業時刻より前に、事業主の指示により、就業を命じた業務に必要な準備行為(指定の制服への着替え等)などが発生した場合は、その時間を労働時間として取り扱う必要があります。

キャンセルや短縮勤務でも発生する休業手当

丸一日の休業または仕事の早上がりをさせることになった場合など、企業都合で勤務が中止や短縮となった場合、たとえ単発の仕事でも労働契約が成立していれば休業手当(労基法第26条)の支払い義務が発生します。現場判断でキャンセルした結果、後から法的トラブルになるケースもあります。

労働時間の見落としに注意

スポットワーカーから予定していた労働時間と異なる実際の労働時間による修正の承認申請がなされた場合は、事業主は、賃金はスポットワーカーの生活の糧であることを踏まえ、予定された労働時間に基づき勤務した賃金は遅滞なく支払うとともに、予定の労働時間と異なる時間については、速やかに確認し、労働時間を確定させましょう。

支払い条件は必ず守る

「交通費別途支給」と求人に記載しておきながら、実際には支払わない——これは明確な違法行為です。アプリ上の勤怠記録を過信せず、支払い履歴と突き合わせるなど、最低限の確認作業は欠かせません。

安全衛生とハラスメント対策

短期就業でも安全教育は必須

労働災害防止対策も事業主の義務です。スポットワーカーの労働災害防止のため、雇入れ時等における機械等の危険性や安全装置の取扱方法等の教育の実施等を講じましょう。

初めて訪れる現場では、わずかな不注意が事故につながります。スポットワークであっても、就業前に作業手順や危険箇所の説明を行いましょう。

労災の適用は通常の雇用と同じ

労災保険の適用も通常の雇用と同じです。スポットワーカーが通勤の途中または仕事中にケガをした場合、スポットワーカーは就労先の事業について成立する保険関係に基づき労災保険給付を受けることができます。

ハラスメントから守る体制づくり

ハラスメント対策も事業主の義務です。スポットワーカーに対するパワハラやセクハラなどハラスメント防止のため、相談窓口の設置やハラスメント対策内容の周知等を行いましょう。

スポットワーカーは立場が弱く、被害を訴えにくい傾向があります。相談窓口の設置やハラスメント防止方針の周知など、正社員やアルバイトと同等の体制を整えることが、信頼される企業への第一歩です。

スポットワークを「持続可能な仕組み」にするために

利便性と責任のバランス

スポットワークは企業にとって「即戦力を確保できる便利な仕組み」であると同時に、「通常雇用と同じ責任を伴う契約」でもあります。利便性だけに目を向けると、思わぬ法的リスクやトラブルに直面することになりかねません。

現場の感覚としては「ちょっと助けに来てもらっただけ」でも、法律上は立派な雇用契約。だからこそ、制度設計と現場運用の両面から、スポットワークを安心して活用できる土台を整えることが、企業と労働者双方の利益につながります。

まとめ

以上、「スポットワーク」における留意事項について厚生労働省のリーフレットを元に解説してまいりましたがいかがだったでしょうか?

スポットワークは働く期間・時間の短さや、雇い入れる際の手軽さから、労務管理が整理できていないこともあるかもしれませんが、スポットワークも労働者であり、労働基準法や各種労働法の適用を受けることは正社員と何ら変わりがありません。
今回のリーフレットの内容に留意しつつ、スポットワーカーに対する適切な労務管理について改めてご検討ください。

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参考URL

厚生労働省『いわゆる「スポットワーク」における留意事項等をとりまとめたリーフレットを作成し、関係団体にその周知等を要請しました。』


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関㟢 悠平

この記事を書いた人

関㟢 悠平

平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。IPO(上場)審査に向けた労務デューデリジェンス (労務DD)を数多く実施、給与計算や社会保険実務にも精通した社労士として活躍中。