労働法改正情報

中小企業のパワーハラスメント防止措置の義務化(令和4年4月1日施行)

2022.03.28

中小企業のパワーハラスメント防止措置の義務化(令和4年4月1日施行)

【1】概要

  • 「労働施策総合推進法」が改正され、大企業は令和元年6月から「職場におけるパワーハラスメント防止対策」が事業主の義務となりました。
  • これまで努力義務とされていた中小企業の事業主についても、令和4年4月1日から対策が義務づけられます。
  • 今回は、パワハラについての基本的な考え方と、事業主に義務付けられるパワハラ防止対策措置についてご紹介いたします。

【2】法改正のポイント

①パワハラの3要素と6類型

厚生労働省ではパワハラについて、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」とし、下記の3つの要素をすべて満たすものをパワハラとしました。

職場のパワーハラスメントの3つの要素
(いずれも満たす場合をパワハラと定義)

(1)優越的な関係を背景として行われること。
(2)業務上の適切な範囲を超えること。
(3)労働者の就業環境が害されること、または精神的・身体的苦痛を与えること。

そして、パワハラの態様から、6つの行為類型に分類し、それぞれについて、上記の3要素の観点から、パワハラに当たる場合とそうでない場合の具体例を挙げています。

パワーハラスメントに当たりうる6類型
1.身体的な攻撃
【要素を満たすと考えられる例】
・上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
【要素を満たさないと考えられる例】
・業務上関係のない単に同じ企業の同僚間の喧嘩
 →(1)(2)に該当しないため
2.精神的な攻撃
【要素を満たすと考えられる例】
・上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
【要素を満たさないと考えられる例】
・遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする
 →(2)(3)に該当しないため
3.人間関係からの切り離し
【要素を満たすと考えられる例】
・自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
【要素を満たさないと考えられる例】
・新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施する
 →(2)に該当しないため
4.過大な要求
【要素を満たすと考えられる例】
・上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
【要素を満たさないと考えられる例】
・社員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
 →(2)に該当しないため
5.過小な要求
【要素を満たすと考えられる例】
・上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる
【要素を満たさないと考えられる例】
・経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせる
 →(2)に該当しないため
6.個の侵害
【要素を満たすと考えられる例】
・思想信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする
【要素を満たさないと考えられる例】
・社員への配慮を目的として、社員の家族の状況等についてヒアリングを行う 
 →(2)(3)に該当しないため

行為の態様が、6つの行為類型に該当しそうな場合であっても、上記(1)~(3)の要素いずれかを欠く場合であれば、職場のパワーハラスメントには当たらない場合があることに留意する必要があります。

②事業主に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止

「労働施策総合推進法」 では、労働者が職場におけるパワーハラスメントについての相談を行ったことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いをすることが、禁止されています。

③職場におけるパワーハラスメントの防止のために講ずべき措置

また職場におけるパワハラ防止対策として、事業主は、以下の措置を必ず講じなければなりません。

職場におけるパワーハラスメントの防止のために講ずべき措置

◆事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化
・パワハラ行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、労働者に周知・啓発する

◆相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・相談窓口を設置し、労働者に周知する

◆職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
・事実関係を迅速かつ正確に確認する
・速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
・事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行う
・再発防止に向けた措置を講ずる

◆そのほか併せて講ずべき措置
・相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
・相談したこと等を理由として、不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

【3】実務のポイント

パワーハラスメント対策防止措置について就業規則等に規定がされていない場合、就業規則を変更する必要があります。

また「労働施策総合推進法 」改正とあわせて、「育児介護休業法」「男女雇用機会均等法」も改正がされており、「職場におけるセクシュアルハラスメント」「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」の防止対策が既に義務付けられて います。

そのため、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント等と一元的に相談に応じることのできる体制の整備が必要になってくると考えられます。

参考URL

『パワーハラスメントの定義について』 (厚生労働省)

『職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)』(厚生労働省)

『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました! ~~セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします~~』(厚生労働省) 

関㟢 悠平

この記事を書いた人

関㟢 悠平

平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。